友達の妊娠を喜べない。それは、心が狭いからではありません

裏返して置かれたスマートフォン

スマートフォンが光って、通知が出る。名前を見た瞬間に、内容の見当がついてしまう。

開くと、エコーの写真が送られてきています。「◯月が予定日なんだ」。

「おめでとう」と打つ。打ってから少し眺めて、消す。もう一度打ち直して、絵文字を足す。送信したあとで、自分の言葉が嘘くさく聞こえて、スマートフォンを裏返して置く。

うれしくないわけではない、と思う。それなのに、体の奥が重くなるような感じがして、しばらく動けない。

「妊娠報告 喜べない」「不妊 妊娠報告 喜べない」。そんな言葉で検索して、このページにたどり着いた方もいらっしゃるかもしれません。

同じように感じている方は、少なくありません。

目次

その気持ちを、言葉にすると

つらいのは喜べないことより、喜べない自分を裁いていることかもしれません。

報告を受けたその瞬間より、そのあとの時間の方がしんどい、ということはないでしょうか。

「おめでとう」と言えた。表情も、たぶん、崩れなかった。それなのに家に帰ってから、自分の声を思い出して落ち込む。あれは本心だったのか、形だけだったのではないか。考え始めると、止まらなくなります。

このとき起きているのは、二つのことが同時にあるという状態です。相手を大事に思う気持ちは、たしかにある。同時に、聞いた瞬間に体が重くなる感覚もある。どちらも実際に起きているのに、片方だけが正しいことになっている。

だから、こう思ってしまう。

心が狭いのは、私の方なのだろうか。

もしそう思っていらっしゃるとしたら、この記事でお伝えしたいのは、その逆のことです。

そして、この気持ちには行き場がありません。報告してくれた相手には言えない。共通の友人にも言えない。パートナーに言っても「気にしすぎだよ」で終わってしまいそうで、言う前にやめる。親には心配をかけたくない。

言えない理由は、もうひとつあります。言った瞬間に、自分がひどい人間になってしまう気がする。 「喜べない」と口に出すことが、相手の幸せにけちをつけることのように感じられる。だから飲み込みます。飲み込んだぶんは、外に出ないまま残ります。

年賀状に子どもの写真が入っている。SNSを開けばエコーの画像が流れてくる。職場の雑談が、急に子どもの話になる。そのたびに身構えて、平気な顔をして、あとで消耗する。 その消耗は、誰にも見えていません。

祝えなかったわけではないのだと思います。祝うための行動は、もう十分にとってこられたのではないでしょうか。

夜のリビングと空いた椅子

同じように感じている人は、少なくありません

この言葉で検索している方は、想像よりずっと多くいます。

Googleで「妊娠報告」と入力したときに表示される関連キーワードを、2026年8月に確認しました。上位に並ぶ10件は、すべてに「喜べない」という言葉が入っていました。(出典:Googleサジェスト/2026年8月確認)

しかも、その10件は相手別に細かく分かれています。友達、親友、同僚、職場。誰からの報告なのかによって、別々の言葉で検索されている。 それだけの方が、それぞれの場面で、同じことを調べているということでもあります。

もうひとつ特徴的なのが、その中に「知恵袋」が入っていることです。調べても答えが見つからず、匿名で誰かに聞ける場所を探している方がいるということだと思います。

あなたが特別に心が狭いわけではないのだと思います。ただ、口に出す方が少ないだけです。

もちろん、人数が多いことは、あなたのつらさが軽いという意味ではありません。同じ言葉で検索していても、抱えているものは一人ひとり違います。治療を続けている方、いったん休んでいる方、まだ誰にも相談していない方、前の妊娠を最後まで続けられなかった経験のある方。つらさに順番はありません。

なぜ、そう感じるのか

湧いてくるのは、相手をうらやむ気持ちというより、あなたの側で起きている喪失の反応なのかもしれません。

その報告で見えているのは、相手の未来ではなく、自分の未来

妊娠報告を聞いた瞬間に頭に浮かぶのは、相手のことだけではないのではないかと思います。

あったかもしれない自分の予定日。 生まれていたはずの季節。そこにいたはずの子ども。

つまり、相手が手に入れたものを見ているというより、自分の側にないものが、急に輪郭を持って見えてしまう。

この感じ方は、「うらやましい」という言葉では足りないことがあります。近いのは、失ったものに触れたときの反応の方です。だから体が重くなったり、あとから疲れが来たり、涙が出たりする。うらやましさだけでは、ここまで体に来ないことがあります。

悲しむ場所が、用意されていない

妊娠報告は、おめでたい知らせとして届きます。その場には、喜ぶ以外の反応の置き場所がありません。

心理・カウンセリングの領域には、公認されない悲嘆という考え方があります。周囲から悲しみとして認めてもらいにくい悲しみのことです。

誰にも報告していなかった喪失。まだ形になっていなかった予定。続けている治療の一回一回。本人の中では確かに何かが失われているのに、外からは「何も起きていない」ように見える。

こうした悲しみは、悲しむ場面そのものが用意されないため、行き場を失いやすくなります。悲しむタイミングを逃したまま、その人の中に残り続ける。

悲しいのに、悲しむ資格がない気がする。 この感覚が、しんどさの正体に近いのではないかと思います。

感情に善悪をつけると、しんどさが二重になる

感情は、選んで起こしているものではありません。先に反応が起きて、あとから「またこんなことを思ってしまった」と気づくという順番です。順番が逆なら、そもそも困りません。

ここで多くの方がしているのが、湧いた気持ちに点数をつけることです。「これは心が狭い」「これはひどい」。裁くたびに、元の気持ちの上に自己嫌悪が乗ります。つらさが二重になるのは、この上乗せの方です。

分けて考えられることがあります。

内容
湧いた気持ち選べない。自然に起きる
とった行動選べる。あなたはすでに「おめでとう」と伝えている

気持ちが湧いたことと、あなたが相手にしたことは、別のものです。祝う言葉をかけたなら、それは行動として成立しています。心の中まで祝福だけで埋まっていなければならない、という決まりはありません。

心の中のほうを、そのまま言葉にしてみたいときは、妊活・不妊の気持ちを聞くカウンセリングのような場所もあります。

気持ちを書き出すためのノートとペン

抱えたまま過ごすための考え方

気持ちを消す方法ではありません。抱えたまま、消耗を少しだけ減らすための考え方です。合う・合わないは人によって違うので、気になったものだけで大丈夫です。

「おめでとう」を、嘘だったことにしない

言った本人が、いちばんその言葉を疑っている。そういうことが起こります。

けれど、伝えたこと自体は動かない事実です。しんどい状態のなかで、それでも相手のために言葉を選んだ。心の中で何が起きていたとしても、したことの方は残ります。

「本心じゃなかったのかもしれない」と考え始めたら、その日に自分がとった行動の方を見てみる、というやり方もあります。気持ちは揺れますが、事実は揺れません。

距離を取ることは、嫌いになったことではない

SNSをミュートにする。返信を翌日に回す。会う場所や人数を選ぶ。しばらく連絡を取らない時期があってもいい。

これは関係を切る話ではありません。また近づける日まで、自分が削られずに待つための距離です。「嫌いになったわけではない」と自分の中で分かっていれば、それで足ります。

ただ、距離の取り方は人によって違います。会って話した方が楽になる方もいますし、少人数なら大丈夫という方もいます。どれが正しいということはありません。

気持ちを外に出す場所を、ひとつ決めておく

心理学では、ストレスへの対処のしかたをコーピングと呼びます。ここで大事なのは、いい方法をひとつ見つけることではなく、手の数を持っておくことです。

  • 紙やメモに、そのまま書き出す
  • 誰かに話す
  • 体を動かす
  • その日は何もしないと決める

書き出すときは、きれいな言葉に直そうとしないでいただきたいと思います。整えた時点で、置きたかったものが抜けてしまうことがあります。

効くものは人によって違います。すすめられた方法が効かなかったとしても、あなたに問題があるわけではありません。 合うものを探している途中なだけです。

話す相手が見つからないときは、妊活・不妊の気持ちを聞くカウンセリングのような場所もあります。

つらさが続いているときは

眠れない日が続いている。食べられない。涙が止まらない。日々の生活が回らなくなっている。そんな状態が続いているときは、我慢しないでいただきたいと思います。

通っている医療機関やかかりつけの婦人科は、体のことだけを聞く相手ではありません。お住まいの自治体にも、妊娠や不妊についての相談窓口が置かれています。「こんなことで相談していいのかな」と思う内容で大丈夫です。

朝の窓辺

一人で抱えなくていい

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

この気持ちが重くなる理由のひとつは、感情そのものより、それを話せる相手が見つからないことにあるのかもしれません。

報告してくれた相手には言えない。共通の友人にも言えない。パートナーに言っても、同じ温度では受け取ってもらえない。親には心配をかけたくない。

誰にも本音を話せない。

そのまま一人で抱え続けるのは、しんどいことだと思います。

話す相手は、身近な人でなくてもかまいません。むしろ、生活が地続きでない相手だからこそ、言えることがあります。

Perchは、答えの出ない時間を、ひとりで抱えないための場所です。友人の妊娠・出産がつらいという気持ちも、そのまま話していただいて大丈夫です。看護師資格を持つカウンセラーも在籍しています。オンラインなので、ご自宅から話せます。1回60分、初回は3,000円です。

うまく言葉にできなくても大丈夫です。 まとまらないまま、話したいところまで話していただいて大丈夫です。

妊活・不妊の気持ちを相談する →


執筆:日本メンタル心理士アカデミー(メンシア)
監修:植田那月(臨床心理士・公認心理師)

看護師資格を持つカウンセラーと、臨床心理士・公認心理師が在籍するカウンセラー養成機関です。産前産後の方が相談できる場として、カウンセリングプラットフォーム「Perch」を運営しています。

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