「子どもはまだ?」がつらいのは、気にしすぎではありません

親戚が集まった席のあと、低いテーブルに残された湯のみと小皿

親戚が集まった席で、料理を取り分けているときに言われる。「そろそろじゃないの?」

職場の雑談で、話の流れがこちらを向く。「お子さんは、まだ?」

久しぶりに会った友人が、悪気なく聞いてくる。「予定とかないの?」

そのたびに、笑って「そうですねえ」と返しています。返しながら、この受け答えは何回目だろうと考えている。

「子どもはまだ 言われたくない」「子どもはまだ 傷つく」。そんな言葉で検索して、このページにたどり着いた方もいらっしゃるかもしれません。

相手に悪気がないのは分かっています。分かっているから、怒ることもできない。

同じように感じている方は、少なくありません。

目次

その気持ちを、言葉にすると

刺さっているのは質問そのものではなく、答えるたびに確認させられる何かかもしれません。

「気にしすぎだよ」。そう言われたことがあるかもしれません。あるいは、言われる前に、自分でそう思っているかもしれません。

たしかに、相手は何気なく聞いています。世間話の一つです。そこに悪意はありません。

それでも刺さる。刺さったことを、うまく説明できない。

説明できないから、こう考えはじめます。「こんなことで傷つく私が、過敏なのかもしれない」。

けれど、刺さっているのは、たぶん質問そのものではないのだと思います。

答えるたびに、「自分は答えられない側だ」と確認させられている。 そこがいちばん重いところではないでしょうか。

「そうですねえ」と笑うとき、あなたは一瞬で、自分の状況を思い出しています。何回目の周期か。次の予定はいつか。前の結果はどうだったか。相手にとっては一往復の会話が、こちらでは全部を数え直す作業になっている。

そしてもう一つ、言いにくいことがあります。

怒れないことが、いちばんきつい。

悪気がある相手なら、腹を立てて終わりにできます。距離も取れます。でも、悪気がないと分かっている相手には、怒りの持っていき場所がありません。行き場のない気持ちは消えずに残って、最後には自分に向きます。

「気にしすぎ」という言葉は、そうやって出てきているのだと思います。

昼下がりの職場の休憩スペースと、カウンターに置かれた紙コップ

同じように感じている人は、少なくありません

この一言は、個人の受け取り方の問題としては扱われていません。

大阪府の「おおさか性と健康の相談センター caran-coron」が、不妊で悩む人の「周囲の方々」に向けたページを公開しています。そこには、こう書かれています。

「親からの『孫はまだか』の言葉は大きなプレッシャーとなり、怒りや悲しみ、自責感といった感情となって内側から当事者を苦しめることになるのです。」

(出典:おおさか性と健康の相談センター caran-coron「不妊で悩む人の周囲の方々へ」)

「怒りや悲しみ、自責感」。 感じているものが、そのまま書かれています。

同じページには、周囲の人が心にとめておくポイントが6つ挙げられています。

①「ここにいます」というメッセージ ②本人が口を開くのを待って ③相手の感情を否定しない ④悩みの背景にコメントしない ⑤「聴く」に徹する ⑥アドバイス・励ましもいらない

そして、こうも書かれています。

「『考え過ぎ』『どうしてそんなふうに思うのか』『そんな小さなことで』などの言葉は禁物。悩んでいる本人の感じ方・感情を、否定したり批判しないでください。」

ここで見ていただきたいのは、このページが「周囲の方々」に向けて書かれているということです。

つまり、「言われてつらい」は、言われた側が直すべきこととしては扱われていません。 公的な相談センターが、言う側に向けて注意を促している。それだけのことが起きている、という前提でつくられたページです。

「気にしすぎ」ではありません。

なぜ、そう感じるのか

悪気のない一言が刺さるのには、いくつか重なった理由があります。

言う側は一回目で、言われる側は何十回目

同じ質問でも、投げる側と受ける側では回数が違います。

相手にとっては、その日はじめて口にした世間話です。悪気がないのは本当でしょう。けれどあなたは、同じ質問を今月だけで何度も受けています。去年から数えたら、何十回かもしれません。

一回分の軽さで投げられたものを、何十回分の重さで受け取っている。 ここにズレがあります。

だから、「そんなに気にしなくても」という言葉は的を外します。相手が見ているのは一回分の出来事で、あなたが抱えているのは積み上がった全部だからです。

どう答えても、何かを引き受けることになる

この質問がやっかいなのは、逃げ道のある答えがないことです。

正直に話せば、その場の空気が変わります。相手を困らせたという感覚が、こちらに残ります。

はぐらかせば、事実と違うことを言うことになります。「まだ考えてなくて」と言った夜に、それを思い出すこともあります。

黙れば、沈黙が残ります。気まずさを引き受けるのは、こちらの側です。

どれを選んでも、何かを持ち帰ることになる。 選択肢があるように見えて、実際にはありません。その場で笑って返しているのは、いちばん持ち帰る量が少ない選択をしているということでもあります。

悪気がないと分かっているほど、怒りの行き場がなくなる

人は、理不尽なことをされたとき、その相手に向けて気持ちを整理します。相手が悪い、と置ければ、それで一区切りつきます。

けれど、この場合は置けません。相手に悪意がないことを、こちらが知っているからです。

置き場所のない気持ちは、消えるわけではありません。行ける場所を探して、最後に自分へ向かいます。

そうして出てくるのが、「気にしすぎな私が悪い」という結論です。これは反省ではなく、行き場を失った気持ちの着地点です。順番が逆になっている、と言ってもいいかもしれません。

行き場のないまま残っている気持ちを置く先として、妊活・不妊の気持ちを聞くカウンセリングのような場所もあります。

夕方の玄関近くの廊下。フックに掛けられた上着

抱えたまま過ごすための考え方

受け流し方の話ではありません。持ち帰る量を減らすための置き方です。

以下は、選択肢として並べるだけのものです。やらなくても構いません。

返す言葉を、先に一つ決めておく

その場で考えるから、消耗します。

「こう聞かれたら、これを返す」を、一つだけ決めておくという方法があります。内容は何でも構いません。「そうですねえ」でも、「ご縁ですからね」でも。

これは相手を黙らせるための技ではありません。その場で考えなくて済むようにしておくためのものです。考える分だけ、自分の状況を数え直す回数が減ります。

うまく返せなかった日を、採点しない

決めておいても、うまく言えない日があります。表情に出てしまう日も、そのあとずっと引きずる日もあります。

そういう日に、「またうまくできなかった」と自分を採点しない。

うまく返せるかどうかは、その日の余裕で決まります。余裕がない日は、余裕がなかっただけです。あなたの対応力の問題ではありません。

「気にしすぎ」という言葉を、自分に使わない

前に書いたとおり、これは行き場のない気持ちの着地点であって、事実の評価ではありません。

自分に対して使うのを、少しだけやめてみる。 代わりに置く言葉は、たとえば「今日は何回目だったな」くらいでいいと思います。回数の話にすると、自分の性格の話から、起きた出来事の話に戻ります。

昼間のカフェの窓際。向かい合って置かれた二つのカップ

聞いてこない人を、一人覚えておく

周りの中に、その質問をしてこない人が一人はいるかもしれません。

気づかれていないのではなく、たぶん、聞かないでいてくれています。その人のことを覚えておく。連絡を取らなくても構いません。「聞かない人もいる」と知っていること自体が、少し効きます。

聞いてこない相手が身近に見つからないときは、妊活・不妊の気持ちを聞くカウンセリングのような場所もあります。

気持ちが重い状態が続いているときは

人と会うのがしんどい。誘いを断るようになった。眠れない日が続いている。そうした状態が何週間も続いているときは、心身を診てもらうことを優先してください。

公的な相談先もあります。

  • 不妊専門相談センター(都道府県・指定都市・中核市に設置):不妊による心の悩みについて、医師・助産師等の専門家が相談に対応しています(こども家庭庁の案内)
  • 東京都 不妊・不育ホットライン:「不妊・不育について、経験のある女性カウンセラーが相談に応じる電話相談」(東京都の妊娠支援ポータルサイト)

一人で抱えなくていい

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

このテーマがしんどいのは、傷ついたことを、傷ついたと言えないことなのだと思います。

相手に悪気がない。だから言えば、こちらが心が狭いことになる。その場にいた人に話しても、「悪気はないよ」で終わってしまう。わかっている、という言葉だけが返ってくる。

誰にも本音を話せない。

そのまま一人で抱え続けるのは、しんどいことだと思います。

話す相手は、身近な人でなくてもかまいません。むしろ、その場にいなかった相手だから言えることがあります。 相手をかばいながら話さなくていい。「悪気はないんですけど」という前置きから始めなくて大丈夫です。

Perchは、答えの出ない時間を、ひとりで抱えないための場所です。看護師資格を持つカウンセラーも在籍しています。オンラインなので、ご自宅から話せます。1回60分、初回は3,000円です。

うまく言葉にできなくても大丈夫です。 まとまらないまま、話したいところまで話していただいて大丈夫です。

妊活・不妊の気持ちを相談する →

人の妊娠報告を素直に喜べないという気持ちについては、友達の妊娠を喜べない。それは、心が狭いからではありません にも書きました。


執筆:日本メンタル心理士アカデミー(メンシア)
監修:植田那月(臨床心理士・公認心理師)

看護師資格を持つカウンセラーと、臨床心理士・公認心理師が在籍するカウンセラー養成機関です。産前産後の方が相談できる場として、カウンセリングプラットフォーム「Perch」を運営しています。

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