流産のあとの妊娠が怖い。素直に喜べないまま過ごしている方へ

早朝の窓辺。椅子にたたんで置かれた毛布

検査薬に線が出ました。前のときと同じ検査薬で、同じ線の出方でした。

そのとき、自分がどう反応したかを覚えているでしょうか。嬉しかったはずなのに、真っ先に浮かんだのが「今度こそ大丈夫だろうか」だった方もいらっしゃると思います。

それからは、毎日どこかで身構えている。お腹が少し痛むたびに手を止める。トイレに行くたびに確認してしまう。写真を撮ることも、誰かに伝えることも、なんとなく先延ばしにしている。

「流産後 妊娠 怖い」「また流産したらどうしよう」。そんな言葉で検索して、このページにたどり着いた方もいらっしゃるかもしれません。

同じように感じている方は、少なくありません。

目次

その気持ちを、言葉にすると

喜べないのは、喜びたくないからではないのだと思います。

前の妊娠のとき、あなたはきっと素直に喜んでいました。名前を考えたかもしれない。誰かに伝えたかもしれない。予定日から逆算して、季節を思い描いたかもしれない。

そのあとに起きたことを、あなたは知っています。

だから今回は、同じようには喜べない。喜んだぶんだけ、失うのが怖いから。

期待しないでおけば、そのときの落差が少しは小さくなるのではないか。どこかでそう思って、気持ちを途中で止めている。写真を撮らないのも、誰にも言わないのも、同じ理由かもしれません。

これは、冷たさでも、後ろ向きさでもありません。一度経験したことを、もう一度受けないようにするための、ごく自然な身構え方です。

そして、ここでもうひとつ、苦しいことが起きます。

その身構えている自分を、あなたが責めている。

今このお腹にいる子に、ちゃんと喜んであげられていない。この子には何の関係もないのに、前のことを引きずっている。母親になろうとしている人間として、どうなんだろう。

喜べない自分が、この子に申し訳ない。

そう思っていらっしゃるとしたら、この記事でお伝えしたいのは、その逆のことです。

壁に掛けられたカレンダーと、その奥の寝室

同じように感じている人は、少なくありません

この状態は、大規模な調査で実際に確認されています。

環境省が全国で行っている「エコチル調査」で、妊婦さん82,013名を対象に、過去の流産・死産の経験と、妊娠中の生活の質(QOL)との関係が調べられました。

その結果、流産・死産の経験がある方は、経験のない方に比べて、妊娠初期の身体面のQOL得点が有意に低いことが分かっています。経験した回数が多いほど、点数は低くなっていました(出典:エコチル調査 富山ユニットセンター「過去の流死産経験は次の妊娠中のQOLに影響を及ぼす」/2023年)。

研究では、その理由について、流産になることを恐れて、できるだけ体を動かさないようにしているのではないかと考察されています。

つまり、あなたが感じている怖さは、気の持ちようの問題ではありません。8万人規模の調査で確認できるほど、実際に多くの方の生活を変えているものです。

そして、同じ調査でもうひとつ分かったことがあります。

流産・死産の経験があってもなくても、妊娠初期から中期・後期にかけて、QOLの得点は上がっていました。 今が一番しんどい時期であって、この状態がずっと同じ強さで続くとは限らない、ということでもあります。

もちろん、これは「そのうち楽になりますよ」という保証ではありません。ただ、いま動けなくなっているのは、あなただけではないということはお伝えしておきたいと思います。

なぜ、そう感じるのか

理由は3つ考えられます。いずれも、あなたの弱さの話ではありません。

一度起きたことは、「起こりうること」に変わったから

前の妊娠のとき、そのことは「まさか」でした。知識としては知っていても、自分の身に起きるものとしては考えていなかった。

けれど、実際に起きました。その瞬間から、それは「起こりうること」に変わりました。

これは悲観的になったのではなく、学習です。 一度経験したことを、次に警戒するようにできている。人が危険なことを繰り返さずに生きていくための働きでもあります。

ですから、「前向きに考えよう」と思っても戻りません。戻らないのが当然で、戻らないことを責める必要もありません。

喜ばないことで、心を守ろうとしているから

期待を下げておけば、失ったときの痛みが小さくなるのではないか。そう考えるのは、とても自然なことです。

実際、私たちは大きな衝撃を予想しているとき、無意識のうちに気持ちを手前で止めます。喜びきらない、楽しみにしない、予定を立てない。これは意識して選んでいるというより、自動的に働いている防御です。

ただ、ひとつだけ知っておいていただきたいことがあります。

喜ばないようにしても、そのときの痛みが小さくなるとは限りません。 失うことがつらいのは、期待していたからではなく、その存在が自分にとって意味を持っていたからです。

だからといって「思いきり喜びましょう」とは申しません。守ろうとしている働きを、外から取り上げるものではないからです。ただ、喜ぶのを我慢しても、守れる量は思っているほど多くないかもしれない、とだけお伝えしておきます。

前の子のことを、まだ抱えているから

次の妊娠が始まっても、前の妊娠が終わったことにはなりません。

けれど周囲からは、新しい妊娠が「解決」のように扱われることがあります。「よかったね」「これで安心だね」。悪気はなくても、その言葉は前の子のことを話題から外してしまいます。

そうして、悲しみが途中のまま置き去りになる。心理の領域では、周囲に認められにくい悲しみほど、その人の中で長く続きやすいと考えられています。

あなたが今抱えているのは、新しい妊娠への不安だけではないのかもしれません。まだ終わっていない悲しみと、新しい不安が、同時に存在している。 重いのは当然だと思います。

二つが同時にあるまま話せる場所として、妊娠中の気持ちを聞くカウンセリングのような場所もあります。

棚に置かれたままの、まだ開けていない紙袋

抱えたまま過ごすための考え方

怖さをなくす方法ではありません。怖いまま過ごすための考え方です。

喜べるようになってから、ではなくていい

「ちゃんと喜べるようになったら報告しよう」「安定期に入ったら楽しみにしよう」。そう先送りにしている方は少なくありません。

けれど、喜べる状態が先に来るとは限りません。怖いまま、日は進みます。

それでいいのだと思います。喜べないまま健診に行く。喜べないまま服を買う。喜べないまま過ごした時間も、この子と過ごした時間です。

喜べているかどうかで、母親としての何かが決まるわけではありません。

前の子を、なかったことにしなくていい

新しい妊娠が始まると、前の子の話をしてはいけない空気になることがあります。今いる子に失礼だ、と自分で思ってしまうこともあります。

けれど、二人を比べる必要はありませんし、どちらかを選ぶ必要もありません。

前の子を思い出す日があっていい。名前で呼んでいたなら、心の中で呼んでいい。予定日だった日を覚えていていい。悲しみに期限はありません。 何年経っていても、思い出すことは自然なことです。

夕方の窓辺のグラスに生けた一輪の花

誰に、いつ伝えるかは、自分で決めていい

報告のタイミングに正解はありません。安定期まで言わない方もいれば、ごく一部の人にだけ伝える方もいます。誰にも言わないまま過ごす方もいます。

言わないのは、隠しているのとは違います。 言ったあとに何かがあったとき、もう一度説明しなければならない。その負担を避けたいだけのこともあります。

伝えるなら、「大丈夫だよ」と返してこない相手を選べると、少し楽になります。必要なのは保証ではなく、そのまま聞いてくれることだからです。

健診の日そのものが怖いという方は、妊婦健診が楽しみじゃない。怖いまま通っている方へ も読んでみてください。健診と健診のあいだの時間については、妊婦健診が4週に1回で不安。次の健診までをどう過ごすか に書いています。

まだ誰にも伝えていない段階で話せる相手として、妊娠中の気持ちを聞くカウンセリングのような場所もあります。

※ 眠れない日が続く、食事がとれない、不安で日常生活が回らないと感じるときは、我慢せず主治医や助産師にお伝えください。 流産や死産を経験したあとの妊娠については、産科でも心理面の配慮が必要な状態として扱われています。伝えることで、健診の間隔や受け方を調整してもらえる場合もあります。

一人で抱えなくていい

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

前のことを誰にも話せないまま、今回の妊娠を迎えた方もいらっしゃると思います。話そうとすると「そのことは、もういいでしょう」という空気になる。だから話さない。話さないまま、一人で身構えている。

こんなことを相談してもいいのかな。 そう思うようなことでも構いません。うまく言葉にできないまま話し始めても大丈夫です。前の子のことを、そのまま話していただいて構いません。

話す相手が見つからないときは、妊娠中の気持ちを聞くカウンセリングのような場所もあります。オンラインで、60分。誰にも言えないまま抱えてきたことを、順番をつけずに話していただけます。

怖いまま過ごしているこの時間を、一人で抱えなくていいのだと思います。

妊娠中の気持ちを相談する →


執筆:日本メンタル心理士アカデミー(メンシア)
監修:植田那月(臨床心理士・公認心理師)

看護師資格を持つカウンセラーと、臨床心理士・公認心理師が在籍するカウンセラー養成機関です。産前産後の方が相談できる場として、カウンセリングプラットフォーム「Perch」を運営しています。

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