
妊活のリセットがつらいのは、切り替えの問題ではありません

朝、いつものように確認して、来ていることに気づきます。
一瞬、何も考えられない時間があります。それから、普通に顔を洗って、朝ごはんを用意して、仕事に行きます。
その日の帰り道で、急に泣きそうになる。電車の中だったり、スーパーの照明の下だったりします。
「妊活 リセット 落ち込む」「リセット つらい」。そんな言葉で検索して、このページにたどり着いた方もいらっしゃるかもしれません。
調べると出てくるのは、切り替え方と、乗り越え方です。読んで、そのとおりだと思って、それでも切り替えられない自分が残ります。
同じように感じている方は、少なくありません。
その気持ちを、言葉にすると
つらいのは落ち込むことではなく、落ち込みを終わらせなければいけないことかもしれません。
「リセット」という言葉を、いつから使うようになったでしょうか。
妊活を始める前は、生理をそう呼んでいなかったと思います。けれど今は、その言葉のほうが自然になっている。カレンダーにも、そう書いているかもしれません。
この言葉には、ひとつ含みがあります。ゼロに戻る、という含みです。
だから、来るたびにこう感じます。また一からだ。
そして周りも、世の中の記事も、同じ方向を向いています。「気持ちを切り替えて」「次があるから」。悪気はまったくありません。けれど、そのどれもが「早く終わらせなさい」と聞こえることがあります。
ここが、いちばん言いにくいところだと思います。
落ち込んでいること自体が、悪いことのように扱われる。
落ち込んでいると妊娠しにくくなる、という話もどこかで聞いている。だから落ち込む自分を見て、「これがよくないんだ」と、もうひとつ自分を責める材料が増えます。
そのうちに、こう考えはじめます。「毎月こんなに引きずる私が、弱いのかもしれない」。

同じように感じている人は、少なくありません
何が当事者をいちばん消耗させているかは、公的な調査で調べられています。
国立成育医療研究センターが2023年10月に発表した調査があります。高度不妊治療を受けている女性344名を対象に、何にストレスを感じているかを調べたものです。
結果は、こうでした。
①「終わりの見えない治療」(28%)、②「ひとりで抱え込む苦しみ」(25%)、③「アイデンティティの揺らぎ」(15%)、④「高額な治療費」(17%)
(出典:国立成育医療研究センター「高度不妊治療を受ける女性が感じるストレス要因が明らかに」/2023年10月5日)
1位は、治療の内容でも、痛みでも、お金でもありませんでした。「終わりの見えない治療」です。
この結果は、毎月の落ち込みの正体を説明していると思います。つらいのは一回一回の出来事ではなく、それがいつまで続くか分からないまま、くり返されることのほうです。
そして2位が「ひとりで抱え込む苦しみ」でした。感じている重さの内訳に、誰にも言えないことがはっきり入っています。
なぜ、そう感じるのか
毎月のことなのに慣れないのには、理由があります。
「リセット」という言葉が、積み重なったものをゼロに見せる
実際には、何も戻っていません。
通った回数も、調べた時間も、断った予定も、体に受けたことも、全部そのまま積み上がっています。減っているものはあっても、ゼロに戻ったものは一つもありません。
それなのに、言葉の上ではゼロに戻ります。「また一から」と感じるのは、あなたの受け取り方が後ろ向きだからではなく、使っている言葉がそう作られているからかもしれません。
※ 言葉が悪いという話ではありません。便利だから広まった言葉です。ただ、その言葉のぶんだけ、余分に重く感じている可能性があるということです。
終わりが見えないと、一回の落ち込みが「予告」になる
終わりの分かっているつらさは、数えることができます。あと何回、と思える。
けれど終わりが見えないとき、今日の落ち込みは、今日だけのものではなくなります。 「これが来月もある」「再来月もあるかもしれない」という形で、まだ起きていないぶんまで一緒に来ます。
成育医療研究センターの調査で1位だった「終わりの見えない治療」は、たぶんこのことです。一回分のつらさに、見えない先のぶんが乗っている。 重いのは当然だと思います。
毎月来ると、悲しむ時間が取れないまま次が始まる
何かを失ったとき、人はそれを受け取るのに時間がかかります。一日や二日では終わりません。
ところが妊活では、受け取りきる前に、次の周期が始まります。 病院の予定が入り、体調を整える話になり、また期待する側に立たされる。
前の分を置ききれていないうちに、次が重なる。 だから月を追うごとに重くなっていくことがあります。慣れないのは、あなたが打たれ弱いからではなく、置く時間が構造的に取れていないからかもしれません。
その置く時間を、月に一度だけ外に作っておくという方法もあります。妊活・不妊の気持ちを聞くカウンセリングのような場所を、そのために使うこともできます。

抱えたまま過ごすための考え方
切り替える方法ではありません。切り替えないまま過ごすための置き方です。
以下は、選択肢として並べるだけのものです。やらなくても構いません。
切り替えようとしない
いちばん先に置きたいのはこれです。切り替えなくて大丈夫です。
切り替えようとすると、作業が二つになります。落ち込むことと、落ち込みを終わらせること。二つ目のほうが、たいてい重い。
落ち込んだまま、ごはんを食べて、寝ていい。終わらせなくても、時間は勝手に進みます。
落ち込む日を、先に予定に入れておく
来るとわかっている日があるなら、その日を先に空けておくという方法があります。
人と会う約束を入れない。残業しない日にしておく。それだけです。
予定に入れておくと、落ち込んだときに「予定どおり」になります。 想定外の出来事として受けるより、いくらか持ちやすくなることがあります。
「リセット」以外の言い方を、自分の中だけで持っておく
人に話すときは「リセット」で構いません。自分の中で使う言葉だけ、別に持っておくという方法があります。
「今月のぶんが終わった」でも、何も言わずに印をつけるだけでも構いません。ゼロに戻るという意味を含まない言い方であれば、なんでもいいと思います。
言葉を変えても、起きたことは変わりません。それでも、「また一から」という感覚だけは、少し外れることがあります。

戻っていないものを、一度数えてみる
「また一から」と感じた日に、実際には戻っていないものを数えてみるという方法があります。
分かったこと。決めたこと。続けてきた時間。通った回数。これまでの自分の体について知ったこと。そのどれも、なくなっていません。
前に進んでいると思えなくても構いません。少なくとも、ゼロではない。 それだけ確かめられれば十分です。
落ち込む日に話せる相手が見つからないときは、妊活・不妊の気持ちを聞くカウンセリングのような場所もあります。
気持ちが重い状態が続いているときは
落ち込みが次の周期まで続いてしまう。眠れない日が続いている。何をしても気持ちが晴れない。仕事や家事が手につかない。そうした状態が何週間も続いているときは、心身を診てもらうことを優先してください。
公的な相談先もあります。
- 不妊専門相談センター(都道府県・指定都市・中核市に設置):不妊による心の悩みについて、医師・助産師等の専門家が相談に対応しています(こども家庭庁の案内)
- 東京都 不妊・不育ホットライン:「不妊・不育について、経験のある女性カウンセラーが相談に応じる電話相談」(東京都の妊娠支援ポータルサイト)
一人で抱えなくていい
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
このテーマがしんどいのは、毎月来るのに、毎月は言えないことなのだと思います。
一度目は聞いてもらえます。二度目も、たぶん大丈夫です。でも毎月になると、言えなくなる。相手が飽きるからではなく、自分が「またこの話か」と思われるのを先に想像してしまうからです。
だから、月を追うごとに口数が減っていきます。
誰にも本音を話せない。
さきほどの調査で、ストレス要因の2位が「ひとりで抱え込む苦しみ」でした。抱え込んでいるのは、あなただけではありません。
話す相手は、身近な人でなくてもかまいません。むしろ、毎月同じ話をしても構わない相手のほうが、この悩みには向いています。前置きも、状況の説明も、そのつどいりません。
Perchは、答えの出ない時間を、ひとりで抱えないための場所です。看護師資格を持つカウンセラーも在籍しています。オンラインなので、ご自宅から話せます。1回60分、初回は3,000円です。
うまく言葉にできなくても大丈夫です。 まとまらないまま、話したいところまで話していただいて大丈夫です。
人の妊娠報告を素直に喜べないという気持ちについては、友達の妊娠を喜べない。それは、心が狭いからではありません にも書きました。
執筆:日本メンタル心理士アカデミー(メンシア)
監修:植田那月(臨床心理士・公認心理師)
看護師資格を持つカウンセラーと、臨床心理士・公認心理師が在籍するカウンセラー養成機関です。産前産後の方が相談できる場として、カウンセリングプラットフォーム「Perch」を運営しています。